インタビューカテゴリインタビューの件数:37

鈴木雄雅先生

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過去の時代を読み取るには、
新聞が格好の資料です。

私の新聞史研究は、大学院生のとき幕末・明治期の英字新聞と出会った時に始まりました。

Q これまで歴史や文学を研究されている先生方へのインタビューは行なってきましたが、新聞の歴史を研究されている先生は鈴木先生が初めてです。これまでとは異なる観点から興味深いお話を伺うことができるのではと、今日は楽しみにしておりました。先生は、主としてどの地域の新聞を研究してこられたのですか。

A 大学院の修士課程のときに、日本の英字新聞に触れる機会がありました。上智大の新聞学科を創設された小野秀雄先生は引退され、『日本新聞通史 1861年―2000年』(新泉社)をお書きになった春原昭彦先生がいらっしゃいましたが、ある先生から英字新聞は原紙の保存状態も悪く、調査が難しいことを教えてもらい、英字新聞の歴史に興味を持ち始めたのがそもそものきっかけです。外国人居留地だった長崎、横浜、神戸に英字新聞が原紙やマイクロフィルムの状態で保存されていることを知り、「英字新聞と外国人ジャーナリスト」というテーマで修士論文を書きました。英字新聞がそれを読んだ人々を通じて明治の日本にどういう影響を与えたのか、ということが関心の中心にありました。
その後、留学先のオーストラリアでも日本の英字新聞と関わりを持った人を調べました。帰国後、ぺりかん社が明治時代の新聞を編年体で復刻したいというので、『日本初期新聞全集』の企画に監修・執筆者として関わりました。ちょうど横浜開港資料館が創設されたばかりの頃で、頻繁に通い、”Japan Herald”や”Japan Mail”などを探り出し、その調査結果もこの刊行企画に反映されています。日本の英字新聞はイギリスに由来するため、サバティカルでイギリスを訪問したときも、その調査にあたりました。
このように、出発点は幕末・明治期における英字新聞と外国人ジャーナリストとその関連の組織だったわけです。そこから派生するように、外国の新聞に関心領域が広がりました。今大学の「外国ジャーナリズム」の授業ではイギリスやフランス、ヨーロッパの新聞を取り上げていますし、オーストラリアとニュージーランドの新聞については多文化社会とメディア、ジャーナリズムという視点から講義しています。

大英帝国を象徴するメディアが、タイムズとロイターです。

Q 弊社で提供している新聞データベースはイギリスの新聞が大半を占めていますが、イギリスの新聞については、これまでどのような関心を持ってこられましたか。

A 英字新聞が明治の日本にどういう影響を与えたのかについて興味を持つなかで、明治時代は世界的には大英帝国の時代だったため、自然にアメリカの新聞よりイギリスの新聞へ関心が向かいました。日本の新聞への影響力という点でもイギリスの新聞は大きかったわけです。授業でもよく話しますが、司馬遼太郎が言うように、大英帝国を象徴するメディアがタイムズとロイターです。タイムズとロイターが配信する情報が世界に大きな影響力を及ぼし、日本もその影響圏にあったわけです。タイムズやロイターが19世紀の世界に影響力を及ぼしているのと同じことが、現在マードックがメディアの世界に君臨しているという形で反復していると、授業では両者を結び付けて話をしています。

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Q なるほど。大英帝国のメディアとしてのタイムズに関心をお持ちになったということですね。

A そうです。と言っても、タイムズは高尚なことばかりを書いていたのではなく、大英帝国の植民地政策をストレートに是認するような記事も載せています。そのため、タイムズのオーストラリアに関する論調とオーストラリア国内の新聞の論調が衝突するようなこともありました。

当時の新聞記者は、記事を新聞に載せるだけでなく、国際情勢の大きなムーブメントを作り出すと言う面もありました。

Q タイムズの影響力というと、日本に関連するところでは、北京特派員のアーネスト・モリソンの名前が思い出されます。

A 「日露戦争を演出した男」(ウッドハウス暎子、1988年)ですね。モリソンのように、当時の新聞記者は、単に記事を書いてそれを新聞に載せるだけでなく、国際情勢の大きな社会的ムーブメントを作り出すという面がありました。

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~January 3, 1901, The Times~

ロシアと中国(清)の間の満州を巡る協定を報じたモリソンのスクープ記事。「満州南部の重要都市、瀋陽をロシアが軍事占領し、行政をロシアの保護下に置くことに関する協定がロシアと清国の間で調印された。」との書き出しで始まり、協定の9条項を列挙している。ロシアによる満州保護領化へ向けた布石として調印されたこの協定は、モリソンによってスクープされた。日本の抗議に遭い、最終的にロシアは協定の破棄を迫られた。このタイムズの記事は、20世紀初頭の東アジア国際情勢に大きな影響を与えた。

大衆の側面を見事に映し出している新聞として、中間紙や大衆紙はもっと注目されてもよいでしょう

Q イギリスの新聞というと、タイムズに関心が集中する傾向がありますが、タイムズ以外の新聞にも光を当てる必要があると思います。タイムズ以外にもっと多くの人に知ってほしい新聞、イギリス新聞史の中で欠かせない新聞を挙げていただけますか。

A デイリー・メールのような大衆紙やインディペンデントのような高級紙です。

イギリスの新聞を購読者から見ると、購読者の8割から9割ぐらいは、大衆紙や中間紙-中間層を大衆と区別し、中間層が読む新聞を大衆紙と区別して中間紙と呼ぶことがあります。デイリー・メールがその代表-を読んでいるというのが実態で、高級紙を読んでいるのはエリート階層に属する人々で数は非常に少ない。社会の大多数をなす大衆の側面を見事に映し出している新聞として、デイリー・メールやデイリー・ミラーのような中間紙や大衆紙はもっと注目されてもよいでしょう。

タイムズ神話が崩壊してゆく中で、タイムズに替わる高級紙になるべく発行されたのがインディペンデントです。

エリート階層の人たちは、キャリア形成の一環としてタイムズに代表される高級紙を読んでいるとも言えます。でも、そのタイムズも1980年代までに、ルパート・マードックに買収され、その部数拡大戦略を推進し、必ずしもエリート階層でない人々を読者とすることによって、大衆紙化している傾向があります。タイムズ神話が崩壊してゆく中で、タイムズに替わる高級紙になるべく発行されたのがインディペンデントです。新聞を通して歴史や世相の推移、政治的対立を見るとすれば、タイムズだけでなく、現代ではインディペンデント、サンデー・タイムズ、ガーディアンのような高級紙や、デイリー・メールやデイリー・ミラーのような中間紙、大衆紙にも眼を向ける必要があるでしょう。

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Q 弊社では今年、インディペンデントの創刊号以来の記事を搭載するデータベースをリリースしました。インディペンデントは政党から独立した新聞というキャッチフレーズの下に創刊されましたが、その姿勢を貫いてきたということが言えるのでしょうか。

A 創刊以来、オーナーは数度変わりましたが、創刊時に掲げていた「独立」という精神は貫いてきたと思います。創刊当初は好調で短期間で部数を飛躍的に伸ばしました。現在は厳しい販売競争の中で苦戦していますが・・・。

マードックのタイムズと対峙するメディアとしても、インディペンデントのバックナンバーは研究において有用です。

Q タイムズのように創刊号が古い新聞は歴史研究に広く活用されていますが、インディペンデントのように新しい新聞のバックナンバーも、研究において有用でしょうか。

A マードックのタイムズと対峙するメディアとしても、有用だと思います。

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高級紙と大衆紙における記事内容の背後に価値観の違いがあることを忘れてはなりません。

Q イギリスやヨーロッパには高級紙と大衆紙という分類があります。それらの相違を授業で学生に伝えるとすれば、どんな説明をなさいますか。

A 新聞に限らずメディアには、それを受容する社会階層が存在します。日本社会は伝統的にはあまり階層が分化していないと言われるのに対して、イギリスではジェントルマン階層と労働者というように階層が分かれていて、タイムズのような高級紙を読んでいる階層とデイリー・メールのような大衆紙を読んでいる階層は全く異なります。
日本では、朝日、毎日、読売等の全国紙が購読されていますが、階層によって読む新聞が異なることはありません。新聞にかかわる社会階層という事実に、まず学生の注意を向けます。また、政治や経済等の堅い記事が多い高級紙とスポーツやゴシップ記事が多い大衆紙というように、記事内容でも異なるということを説明します。新聞をはじめメディアは、雨や風のような自然現象とは異なり、出来事を伝える媒体として人為的に作られたものです。人々の考え方や時代の価値観のなかで新聞は作られます。だからこそ、新聞がこういう記事を載せているということだけ見ているだけでは充分ではなく、どういう価値観の中で記事が作られているかということを見てゆくことが大切です。高級紙と大衆紙の記事内容が異なるのも、その背後にどんな記事を掲載すべきか、という価値観の違いがあるということを忘れてはなりません。

新聞の歴史的成り立ちを理解しないと、新聞記事の内容や傾向を理解することはできません。

さらに、日本型新聞社会との違いという点も重要です。日本では、明治時代に新聞が社会に普及してゆく過程で、販売店が整備されます。その結果、新聞が家庭に行き渡り、家庭が宅配によって新聞を購読するというスタイルが成立します。販売体制が整備され、新聞は社会を知る媒体として受け入れられてきたというのが日本型新聞社会の特徴です。スポーツ新聞が多く売れているのが世界では韓国と台湾と日本の3か国であるというも、歴史的に日本の新聞発達の影響に由来するもので、現在の新聞が販売網の整備を含めて歴史的に組み立てられてきたことを物語っています。

販売網が一般の配送業者に委ねられているイギリスやヨーロッパでは駅の売店のようなところで毎日購入して読むという発展を見ましたが、それでも高級紙は宅配の方が多いようですが。大衆紙の読者は宅配で大衆紙を読むことはなく、売店で購入します。

新聞の歴史的成り立ちを理解しないと新聞記事の内容や傾向をきちんと理解することはできません。高級紙と大衆紙の相違を説明するには、読者層や記事内容の相違だけでなく、新聞が歴史的に形成されてきたプロセスまで踏み込む必要があります。

イギリスの高級紙は、物故欄が充実しているのが特徴的です。

Q ○○欄が充実している、記事の掘り下げの相違、誤報への対処法など、記事や紙面の構成に関して、日本の全国紙にはないイギリスの高級紙の特徴としては、どんな点が挙げられますか。

A 物故者欄を挙げることができると思います。最近は、日本の新聞も物故者の評伝などに力を入れることで物故欄が充実してきましたが、イギリスでは伝統的に、タイムズやインディペンデントなどの高級紙では物故者欄が充実しています。イギリスの人だけでなく世界各国の人を載せています。漫画家の長谷川町子も取り上げられました。今のようにアニメが世界的に流行する以前です。目の

付け所が良いのです。物故者欄以外では、国内ニュースや国際ニュースの取り上げ方、扱い方は日本の新聞も勉強しなければいけない部分だと思います。

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July 14, 1992, The Independent

物故欄は故人のパーソナルな情報も書かれていて、記事として面白い。

Q イギリス高級紙の物故者欄は私自身も興味深いと思います。毎日”Obituaries”という欄が設けられていて、写真付で物故者の経歴が詳しく掲載されています。

A 日本の新聞はまだ1ヵ月に一回ぐらいですね。故人と縁のあった記者が表に出にくいようなことを書いているのも面白いですね。この人にはこんな意外なところがあったのかということも分かります。故人のパーソナルな情報も書かれていて、記事として面白い。どんな人が物故欄に載るかについても、編集者の見方が出ているのだと思います。

アメリカなどでは、ファミリー・ヒストリーを調査するインフラとして公共図書館等に新聞が揃っています。

Q アメリカやオーストラリアは移民の国ですから、自分の家族のルーツを調べるツールとして新聞の物故欄などが利用されているようです。

A その需要に応じるために、公文書館や公共図書館に新聞がきちんと揃っているのです。ファミリー・ストーリーを調査するインフラが整っています。私の研究もそれによるところが多かったのですが、いまはオンライン化が進み、現地に行かなくともある程度情報が入手できることは大変助かります。逆にというより、もちろん現地での調査が最後にものをいうことに変わりはありませんが。

Q 新聞というと事件や事故を報道するというイメージが強いですが、先生が”Nagasaki Shipping List and Advertiser”の創刊者A.W. ハンサードで行なったように、物故者欄・船舶の出入港情報などから人物に関する新聞記事を使って過去の人物を調べるというのは、日本で一般的にイメージされている新聞の利用法からは離れていると思います。

A そうですね。A. W. ハンサードを調べたときは普段やっていないことを調べたので、面白かったです。

過去の時代に入り込んで、時代の文脈の中で事件を読み解くには、新聞が格好の資料です。

Q 先生はメディアとしての新聞そのものを研究していらっしゃいます。歴史研究者にとって新聞は歴史資料の一つに過ぎません。新聞で使われている言葉に関心を持つ研究者もいるでしょう。研究資料として新聞は汎用性が高いと思いますが、書籍、雑誌、議会資料、個人文書などと比較して、新聞の研究資料としての独自性はどんなところにあると思いますか。

A どんな出来事でも流れをきちんと把握できるのが、新聞の資料としての優れた点です。

同じ出来事について書かれた書籍もありますが、出来事の流れの全体を見渡すことができるというのが、新聞資料の価値です。様々な過去の出来事が点としてあり、これらの点を後世の人々は線で結びつけなければなりません。それはまた、ジャーナリズムの仕事でもあるわけです。

後世の人々が過去の新聞記事を拾ってゆくと、その時代を適切に語っていることに気づきます。この点も新聞の魅力です。新聞を通して時代を読み取ることができる、ということです。昔の事件について、今から振り返っていろいろコメントすることはできるでしょう。事件がどのような経過をたどったかということは年表を見れば分かります。でも、その事件がどうして発生したのかということを、後知恵ではなく時代の文脈の中で読み解く、その時代に自分が入り込むぐらいの感覚を持たないと、その時代を本当に理解したことにはならない、ということを学生によく言っています。その時代に入り込んで、時代の文脈の中で事件を読み解くには、新聞が格好の資料です。

時代の空気を読むには、公式に書かれた歴史ではなく、その時代に書かれた新聞の方が適切です。

Q 後世の人はその事件がその後どういう経過を辿ったかということが分かっていますからね。時代の空気、本音、価値観が新聞の中に最も映し出されているということではないかと思います。

A そうですね。社史に代表される公式の歴史には、都合のよいことしか書かれていないという面はあります。時代の空気を読むには、公式に書かれた歴史ではなく、実際にその時代にかかれた新聞の方が適切です。ただ、時代の空気を読むには、読む側の努力がいるということも事実ですが・・・。

Q 上智大学様は、タイムズ、サンデー・タイムズ、バーニー・コレクション、19世紀のBL新聞コレクションのデータベースを導入なさいましたが、新聞データベースを使ってどんなことを調べてみたいとお考えですか。

A 複数の新聞をデータベースで使えるようになると、過去に遡って横断的に検索できるので、いろいろな検索ワードを使って試してみたいと思います。研究として未解明の事実が発掘できるのではないかと期待しています。

アジア各国の英字新聞は、その国の報道の自由と深く関わっています。

Q 複数の新聞データベースを横断検索できるGale NewsVaultもお使いになれますので、是非お試しになってください。アジアの英字新聞については、どの新聞に関心をお持ちになりますか。

A 19世紀の半ば頃、欧米から中国に渡った宣教師らが新聞を発行しますが、これらの英字新聞がどのような経緯で発行され、どのような経過を辿ったのかに関心があります。

現代のアジア各国には、バンコク・ポスト、コリアン・タイムズなど英字新聞がありますが、これらアジア各国の主要な英字新聞全般にも関心があります。言論統制が厳しいアジア各国の英字新聞は、政府当局と緊張関係にあり、英字新聞がその国の表現や報道の自由と深く関わっているという面があります。

Q 英字新聞の報道が報道の自由のバロメーターになっているということですか。それは興味深いですね。先生が、メディアやジャーナリズムの歴史の授業で、新聞データベースをお使いになるとします。どんな授業をやってみたいですか。

A 以前、学部一年生向けの情報リテラシーの授業で、新聞を読んで、新聞記事を作らせたことがあります。その上級編があれば面白いと思っていたのですが、新聞データベースを使えば、新聞記事作りの上級編にいかせる授業ができるのではないかと思います。「日本」というキーワードを導入にして、ここから派生するワードで検索させ、どんな記事が出てくるか、外国の新聞が日本で発生した出来事をどう報道しているか調べさせると面白いと思います。留学生なら母国名などが導入になります。

社会で必要とされる基礎能力を養うための媒体として、新聞は依然として他のメディアより優れています。

Q 新聞学科の学生はともかく、一般の学生はあまり新聞を読まなくなっているのではないでしょうか。先生は『新聞を読もう!』(教育画劇)という本の監修をなさっています。新聞をあまり読まない学生にメッセージを送るとすれば、どんなメッセージを送られますか。

A 新聞は、社会的なコミュニケーション能力を養う媒体です。学生が大学を卒業して社会に出たときに必要とされる基礎能力を養うための媒体としては、依然として他のメディアより優れています。昔は家族がいてコミュニケーションが成立していたのが、今は家庭の中でもパーソナル空間が増えているため、コミュニケーションが取りにくい。

最近、テレビ番組を見ていると、視聴者のツイッターのつぶやきが画面に表示されますが、昔は家族でテレビを見ながらコミュニケーションを行なっていたのに、今は聞いてくれる人がいないから、こういう現象が出てきているのかと思います。

学生が新聞に関心を持つようになるために、活用事例を紹介した冊子があれば有効かもしれません。

Q 新聞を読まない学生が、新聞データベースを通じて新聞に関心を持つようになると、弊社としても嬉しいのですが、そのためにはどんな仕掛けが必要でしょうか。

A データベースを使って行なった研究、データベースを使って書いた論文など、データベースの活用事例を紹介した簡単な冊子があれば面白いと思います。それを使って図書館で利用講習会を開くのも良いでしょう。

Q 一般に、利用講習会というと、機能を一通り説明するものですが、さらに一歩踏み込んで具体的な活用事例を紹介するということですね。

A そうです。今の学生は論文を書かせる前に、研究とは何か、論文を書くとはどういうことか、という基礎から指導する必要があります。学生はデータベースを使うこと自体には苦労しないのでしょう。ですから、具体的な活用事例を紹介するようにしたほうがより効果があるでしょうし、論文指導にも有効ではないかと思います。

Q 実は私どもでも、データベースを使った事例紹介をやろうとしています。たとえば、学生が茶の歴史を調べようとします。最初はレファレンスで茶の歴史を解説する簡単な記事をデータベースで見つけます。そこには17世紀に茶が中国からヨーロッパにもたらされたことが書いてあるので、次に17世紀の新聞に茶の記事が載っているかどうか、新聞データベースで調べてみると、茶の広告が載っている。その広告を見ると、茶が飲料としてだけでなく薬としても見なされていたこと、”tea”とも”cha”とも呼ばれ、名前がまだ確立していなかったことが分かります。さらに、時代を下るにつれ、茶が次第に一部の上流階級の嗜好品から国民の必需品になってゆく過程を新聞記事で追ってゆくことができる。こんなふうに参考図書を入口にして、昔の新聞を使って詳しく調べるということを、ストーリー仕立ての事例集として紹介できたらよい、と考えています。

A そうですね、学生にはよく原典に当たるよう指導していますので、古い新聞に当たることも必要になります。昔なら新聞の原紙に当たることになりましたが、今はデータベース化されているので、記事を検索することが容易になったと言えます。

ニュースの収集や編集こそが新聞の真髄です。それを軽んじれば、ジャーナリズムの衰退を招くだけです。

Q それでは最後に、新聞の将来についてお尋ねしたいと思います。現在、ニューヨーク・タイムズの社屋が売却されたり、購読者数が減少したり、海外でも日本でも、新聞は苦境に立たされていますが、新聞の歴史を研究されてきた先生は、新聞の未来の形をどのようにご覧になっていますか。

A 日本の新聞については、これまでのようにほとんどの家庭が新聞を購読し、全国紙の発行部数が800万部にも達するという状況はなくなり、読者数は減少するが、新聞を読むことがキャリア形成に必須であるという形で、新聞の新しい立ち位置が定まることにより、スマホやネットは誰でも使うが、社会のエリートは新聞メディアを利用するというように変わってゆくと予想されます。インターネットが商用化されて四半世紀、サイバースペースでもメディアが成長してきましたが、デジタルジャーナリズムの汎用性はまだまだ開発が始まったばかりで、本紙と抱き合わせのデジタル購読ではなく、デジタルメディアとして単体で購読者を募れるようになるか、採算を取れるようになるかということがポイントになると思います。

いずれにしても、今後メディアがどのような方向に進むか、新聞と他のメディアがどのような役割分担をするのかを決めるのは、新聞社ではなく、社会です。現在のように、ニュースの収集や編集に人件費がかかるからと言って、効率化を進め、無駄を削り、経費を削減する傾向が進むと、ジャーナリズムの衰退につながると思います。これは世界のメディア研究者が等しく言っていることです。

Q 今日は、新聞の歴史と現状について、とても興味深いお話をお聞きすることができ、時間の経つのも忘れたくらいです。どうも、ありがとうございました。

※このインタビューを行なうに際して、雄松堂書店様のご協力をいただきました。ここに記して感謝いたします。

ゲストのプロファイル

鈴木雄雅

すずき・ゆうが

■学歴:

上智大学大学院文学研究科博士後期課程(新聞学専攻)単位取得満期退学

■主な著書:

・監修『新聞を読もう』全3巻(教育画劇)(2012)

・『韓国メディアの現在』(編著、岩波書店)(2012)

・『オーストラリア入門 第2版』(共著、東京大学出版会)(2007)

・『マス・メディアと冷戦後の東アジア―20世紀末北東アジアのメディア状況を中心に』 (奥野昌宏編、共著、学文社)(2005)

・『ゼミナール 日本のマス・メディア』【第2版】(共著、日本評論社)(2004)

・『グローバル社会とメディア』(武市・原責任編集、共著、ミネルヴァ書房)(2003)

・『日本初期新聞全集』索引・解題集(ぺりかん社)(2000)

・『近代日本のジャーナリスト』(共著、御茶の水書房)(1987)

・『日本初期新聞全集』(ぺりかん社)(1986-1997)

■主な論文:

・「オーストラリアの放送―多様化の進展―SBSの今日的状況」『ジャーナリズム&メディア』no.4(2011.3)

・「新聞経営の先達者:ウォルター家と『ザ・タイムズ』(上)」コミュニケーション研究 no.40(2010.3)

・「日韓のコミュニケーション学術交流の歴史的回顧」コミュニケーション研究 no.38(2008.3)

・「神戸英字紙界と日露戦争」『コミュニケーション研究』第36号(2006.03)

・「19世紀オーストラリア植民新聞の生成過程」『コミュニケーション研究33号((2003/3)

・「国際コミュニケーション論の再考と展望(3)」『コミュニケーション論』No.32(2002/3)

・「国際コミュニケーション論の再考と展望(2)」『コミュニケーション論』No.31(2001/3)

・「国際コミュニケーション論の再考と展望」『コミュニケーション研究』No.30

・「カナダ新聞史」『新聞通信調査会報』454(2000.9)

・「マス・メディア企業の国際支配を考える」『マス・コミュニケーション研究』No.56

・「R.マードックのメディア戦略――”ダーティー・ディッガー” から世界のメディア王へ」 『海外事情』(拓殖大学海外事情研究所)9月号

・「ニュージーランド新聞史(2)」 『新聞通信調査会報』 444(1999.11)

・「ニュージーランド新聞史(1)」 『新聞通信調査会報』 437(1999.4)

・「オーストラリアのマス・コミュニケーション略年史:1788-1901」 『コミュニケーション研究』第26号(1996.3.25)

・「19世紀後半のオーストラリア新聞界(3)』『コミュニケーション研究』25号(1995.3.25)

・「研究ノート ある英人発行者を追って―A.W.ハンサードの軌跡」『コミュニケーション研究』23号

・「日本最初の英字紙を創刊 A.W.ハンサードの生涯をたどる」『新聞通信調査会報』 No.367

・「幕末・明治期の欧字新聞と外国人ジャーナリスト」 『コミュニケーション研究』21

・「日本報道と情報環境の変化-情報発信に関わった外国人ジャーナリスト」 年報 近代日本研究-近代日本と情報』12(1990)

・「幕末明治の英字紙史考」 『ソフィア』 34巻1号(1985)

・「オーストラリア新聞発達史」『コミュニケーション研究』15~26号 (1985~96)

・「植民地ジャーナリズムへの一考察-1820年代のオーストラリア新聞界」『新聞学評論』 31号(1982.6)

現在(2014年)上智大学文学部新聞学科教授



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